024年7月19日(金)
第5期ストリートメディカルラボ 第2回 講義
テーマ:想像とデザイン〜行動変容を中心に〜
講師:山本尚毅先生
プロフィール:北海道大学農学部農業経済学科卒。システム会社勤務ののち,2009年に株式会社Granmaを創立。2010年には発展途上国の貧困層に必要なデザインやサービスを展示する「世界を変えるデザイン展」を企画・開催。2013年「企業を変えるために、社会の雰囲気や社内起業家を応援する。」という理念の元,日本財団主催の「未来を変えるデザイン展」運営。2015年より予備校にて,意思決定,未来洞察,シナリオプランニングを学ぶ探究型プログラムを開発,「進路選択ツールキット(高校生向け)」で2022年グッドデザイン賞を受賞。2024年3月に北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術専攻修士課程修了(優秀修了者)。
書籍:『もし「未来」という教科があったなら』(学事出版、編著)
以下本文
今回の講義には、第1期のストリートメディカルスクールから毎回ご登壇いただいている山本尚毅先生にお越しいただきました。テーマは「想像とデザイン〜行動変容を中心に〜」。山本先生のご経験、文化人類学、行動経済学からさまざまな考え方をご紹介いただきました。また、複数のグループワークを通し自分の身近な状況に落とし込んで考えることで、より解像度高く今回の授業を理解することができました。
これまでの山本先生の活動
講義はまず、山本先生のご経歴の紹介から始まりました。「想像とデザイン」をテーマに幅広い業種、職種でご活躍されています。
山本先生が開催された「世界を変えるデザイン展」は、主に途上国の課題解決のために制作されたプロダクトを集めて展示したものです。比較的手に入れやすい価格で簡単に製作できる義足や、空き缶の上に載せるだけで簡単に注射針を回収できる蓋など、実際に現地に行かないと見えてこないような課題を解決するプロダクトをご紹介いただきました。
どうストリートをみるか?
グループワーク①「あなたならどんな携帯電話を作りますか?」
2005年当時、使えるはずのない層(識字ができない層)の間でNokiaの携帯電話の購入が増えるという奇妙な現象がありました。この層に向けた新たな企画として「もしあなたがこのNokiaの企画者なら、どのような携帯電話を作るか?」をテーマにグループで話し合いました。
学生からは、絵文字や音声で連絡できる携帯電話、ポケベルのような携帯電話、モールス信号や色を活用した携帯電話など様々な案がでました。
参与観察
Nokiaの人たちが行ったリサーチの結果わかったことは、文字を読むことや書くことができる知り合いにメールの解読をお願いしていたということです。また、文字の読めない人は文字が読める人と同じデザインを使いたがる傾向があったそうです。
このような隠れたニーズを見つけるため、「参与観察」とよばれる文化人類学の方法をご紹介いただきました。客観性が必要となるビジネスの現場で用いられるような方法とは異なり、主観を伴ったアプローチです。他者を尊重し、理解しようと努めることで自分の当たり前を疑い、そこに新たな発見が見つかるのだそうです。
普段医療業界で働いている方々にとってはあたりまえでもその他の業界ではそうではないこと、またはその逆も往々にしてあるかと思います。その両方の世界観を理解し、その違いや違和感をアイデアの種として育てていく手法はまさにストリートメディカルの課題発見に必要なアプローチだと感じました。
行動変容のためのアプローチ:人々の解決方法を知ること
グループワーク②「皆さんの知ってる、もしくは自分なりのポジティブデビアンスを共有してください!」
行動変容のためのアプローチの1つ目は「うまくいっている方法を探す」です。
「ポジティブデビアンス」とは、他の人たちと同じような困難や問題を抱えている人が、違った行動によって問題を解決し、うまくやっているアプローチのことです。
グループワーク②では、「身の回りのポジティブデビアンス」についてグループで話し合いました。
ポジティブデビアンス自体事例が少ない難しいテーマでしたが、比較的経済的な余裕がなくても名門大学へ進学した例や、ある地域で天然痘が流行していたのにも関わらず一部普段から乳搾りをしている人々はかかりにくかった例(ワクチンの発見につながった事例)などさまざまな例が挙がりました。
総括として、ポジティブデビアンスを実際に発見するのは難しくとも、ポジティブデビアンス的に考えることが重要だと山本先生は話していました。今自分が抱えている問題は、誰かがもう解決しているかもしれないという思考で問いを立てることの大切さを学びました。
グループワーク③「自分の知っている、体験したナッジ・スラッジを共有しよう」
行動変容のためのアプローチの2つ目は「望ましい行動を取れるように後押しする」、3つ目は「抵抗を取り除く」です。行動経済学の考え方で有名なナッジ、スラッジ(人が行動するときにそれを邪魔する、摩擦のようなもの)についてご紹介いただきました。
グループワーク③では、「自分の知っている、体験したナッジ・スラッジ」についてグループで話し合いました。スラッジの例として、試験の申し込みがオンラインと印刷、手書きのさまざまな方法で行われる例があがりました。学生さんの中には身に覚えがある方もいるようで、笑いが起こる場面もありました。また、サブスクリプションサービスの解約の手続きが煩雑である例なども挙がりました。
人々の抵抗を取り除くというアプローチは、前回の授業で西井先生がお話ししていたハピネス・ドブリンのイネーブリングファクターに通じるものがあるように感じます。課題解決ための魅力的なアイディアも、抵抗が大きく人々に受け入れられなければ意味がなく、アイデアを見つけるだけなく実際に社会に実装する上で重要な考え方だと感じました。
行動変容のアプローチの4つ目として山本先生は「関係性を作り、伴奏する」ことの大切さを挙げています。問題を抱えている当事者とともにデザインする、当事者が問題を解決できるようにサポートするという考え方は、ストリートメディカルを考える上でとても重要な視点だと感じました。
テキスト by 佐久間美季