2024年10月11日(金)
第5期ストリートメディカルラボ 第12回 講義
テーマ:ストリートメディカルの時代〜医療におけるコミュニケーションの大切さ〜
講師:井上祥先生
メディカルノート代表取締役・共同創業者/医師・医学博士、大阪大学招聘准教授、横浜市立大学特任准教授、東京科学大学非常勤講師、千葉大学客員研究員
2009年横浜市立大学医学部卒。横浜労災病院初期研修医を経て2011年より横浜市立大学大学院医学教育学・消化器内科学、2015年3月医学博士(甲号)を取得。医師として多数のベストセラー医療書籍を執筆し、在学中よりメディカルノートを創業。一般生活者の医療リテラシー向上を理念に医療情報サイト「メディカルノート」を2015年3月に立ち上げ。2008年北京頭脳オリンピック”WMSG”チェス日本代表。日本オリンピック委員会中央競技団体ドクターとして2013年仁川アジア大会チェス日本代表のアンチ・ドーピングを担当。東京都医学総合研究所客員研究員。
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第12回目の授業には、医師・医学博士、横浜市立大学共創イノベーションセンターの特任准教授、株式会社メディカルノートの代表取締役などさまざまな肩書きを持つ井上 祥先生にお越しいただきました。今回の授業では、井上先生のキャリアの中心にある「メディカルサイエンスコミュニケーション」をテーマにお話しいただきました。
井上先生のキャリア
井上先生は、研修医を終えた後、医学教育学を専攻されました。その学びの中で「メディカルサイエンスコミュニケーション」に出会い、一般の人々に正しく医学情報を広めることの重要性を感じ、医療情報サイト「メディカルノート」の立ち上げに至ったそうです。井上先生はご自身のキャリアを最終的な目標に固執しない「計画的偶発性理論」で説明していました。自分の行動特性が好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、冒険心にあると分析し、それに基づいて自分が面白いと思う道を進んでいたらこうなったとおっしゃっていました。一般的に医師という職業は、他職業より目指すべきキャリアゴールが明確であり、それに向かって進んでいく人が多いという思い込みがありましたが、井上先生のキャリアには、ある意味でデザイナー的な側面が大いにあると感じました。
「届ける」には工夫が必要
続いて、現代社会を取り巻く社会課題が医療業界に与える影響について解説いただきました。大量の情報が社会に溢れ、誰もがその情報を受信・発信することができる現代において、インフォデミックが深刻な問題となっています。フェイクニュースやエビデンスがない医療の不適切な拡散などにより、誤った医療情報が蔓延し、混乱が起きたり、不適切な医療行為が助長されることがあります。
メディカルノートでは、信頼できる医療情報を提供するだけでなく、その情報に届けるアクションを行なっているそうです。Googleにおいて、医療関連の検索数は世界全体の検索数の5%をも占めるそうです。検索結果画面に適切に表示されるようにするなど、正確な情報を欲しい人に届けることを大切にされています。また、IRUDと呼ばれる未診断疾患の認知拡大や、最新の治験を受けたい患者さんと、治験を行いたい医療従事者をつなぐネットワークなど、情報を「届ける」ための工夫をされています。
また、井上先生は患者や医療従事者のヘルスリテラシーを上げるためのヘルスコミュニケーションの重要性もお話ししていました。ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する情報を入手し、理解し、活用する能力のことです。ヘルスリテラシーを上げるためのヘルスコミュニケーションには、理論的要素、実践的要素、政策的要素、文化的要素が含まれており、これらがうまく機能することで、患者や医療従事者への適切な情報提供ができるそうです。マクロ(世界・国家レベル)、メゾ(地域・病院レベル)、ミクロ(個々の医師や患者レベル)のアプローチする対象を意識することの重要性もお話ししていました。
一般的なビジネスにおいては基本であるマーケティングの手法も、日本の医療業界では十分に取り組めていないという現状を感じました。患者さんにとって知らないことが生死を分けることになりうる医療業界だからこそ、正しい情報を適切に届けるということの重要さを感じました。
ケーススタディ
最後に、認知症の診断を受けた患者への情報提供の方法について考えるケーススタディを行いました。生徒はチームに分かれ、診断を受けた患者さんへどう情報提供をするか?家族内での役割分担やストレス管理のサポート体制、認知症理解を深めるための教育プログラムの設計方法について話し合いました。医療情報をどのようにして患者が理解しやすい形で伝えるか、さまざまな案が出ました。
このワークショップを通じて、コミュニケーションの手段や方法をさらに深く考えるきっかけとなりました。特に認知症は、多職種が関わることが多い病気なのだそうです。さまざまな説明により患者を混乱させることもあり、職種間の連携の重要さなども学びました。
テキスト by 佐久間美季