2024年9月20日(金)
第5期ストリートメディカルラボ 第10回 講義
テーマ:新しい時代のための建築と環境
講師:岡部修三先生
2005年慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 環境デザインプログラム 修士課程修了。2004年よりupsetters architects 主宰。「新しい時代のための環境」を目指して、建築的な思考に基づく環境デザインと、ビジョンの継続的な探求のためのストラテジデザインを行う。2014年よりブランド構築に特化したLED enterprise 代表、グローバル戦略のためのアメリカ法人 New York Design Lab. 代表。2018年より愛媛県砥部町で採れる砥石の可能性を模索する株式会社 白青 代表兼任。2021年より日本デザインコンサルタント協会(JDCA)副代表理事。JCDデザイン賞金賞、土木学会デザイン賞優秀賞、グッドデザイン賞、iFデザイン賞など、国内外での受賞歴多数。著書に「upsetters architects 2004-2014,15,16,17」(2018年、upsetters inc.)、共著に「ゼロ年代11人のデザイン作法」(2012年、六耀社)、「アーキテクトプラス“設計周辺”を巻き込む」(2019年、ユウブックス)、連載に「実践講座 地域再生が変わる」(2023年、日経アーキテクチャ)がある。
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第10回目の授業には、upsetters architects主宰、建築家の岡部修三先生にお越しいただきました。建築家という肩書きだけではとらえきれない岡部先生のさまざまな活動やそれを支える世界観について、具体的なケーススタディをもとに講義が行われました。
建築的な環境デザイン
まず、物理的な建物をデザインすることに留まらない「建築的なアプローチ」についてご紹介いただきました。「パブリックマインド」「時間軸の視点」「メタ認知」の3つからなるアプローチについて、ケーススタディをもとにお話しいただきました。
また、さまざまな前例や技術の発達により、なんとなく良さげなもの、ある程度良いものは世界に溢れているが、そこから「いかにはみ出すか?」が面白いものをつくる鍵になるとおっしゃっていました。
高級ホテルのレストランのインテリアデザイン設計についてのケーススタディとして、一枚一枚焼いたガラスや、音楽まで素材から手がけた例などをご紹介いただき「〇〇ってこうだよね」というものにとらわれず、0から考え直して再構築するというプロセスを学びました。環境、景色、建築、インテリア、プロダクト、マテリアルなど、それぞれのスケールの違いに意識的にデザインをされているそうです。
お話を聞く中で、岡部先生の世界を俯瞰で見る力の高さに驚かされました。特に建築家というバックグラウンドだからこその視座の高さ、スケールの大きさを感じました。
パートナーシップとストラテジデザイン
岡部先生は、プロジェクトにおいて、クライアントからの依頼をその通りに進めていくだけでなく、「何を頼まれるか?」から一緒にやるそうです。「クライアントと一緒にできる、楽しめそうなことを考える」とおっしゃっていました。
ケーススタディの中に、元々の依頼は企業のオフィスデザインだったものの、リサーチや分析、戦略設計を通し、ブランドアイデンティティから設計し直した事例がありました。岡部先生は建築家でありつつもその枠にとらわれず、事業モデル、社内の文化、社会における文化などさまざまなもののデザインを行なっていると感じました。
できることの積み重ねで仕事をするのではなく、「こうなりたい」「自分が一番やりたい」と思うことにむけてすすんだり、はみ出したりしていくとおっしゃっていたことが印象的でした。
ワークショップ「プロジェクトを取り巻く『システム』について考える」
最後に行われたワークショップでは、それぞれが取り組んでいるプロジェクトを取り巻く「システム」について考えるお題が出されました。そしてそのプロジェクトとシステムの関係を考え、そのシステムを意識した上での課題点を考察するというものです。この課題においての「システム」とは、さまざまな要素の複合体を動かす見えない力のことです。
今回のお題はやや抽象度が高く、苦戦している生徒が多いように思いました。自分の作ったものを社会で存在させる上で、立ち位置や取り巻く環境を意識してプロジェクトを進めていくことの重要性を感じました。
講義の最後に「宇宙船地球号」を提唱したバックミンスター・フラーの「Specialization is in fact only a fancy form of slavery.」という言葉をご紹介いただきました。専門化・細分化される社会において領域を横断できるデザイナーというお仕事の価値を改めて考えさせられました。
テキスト by 佐久間美季