ストリートメディカルトークス2024

ストリートメディカルトークス2024

 

ストリートメディカルラボ第5期修了発表会である「Street Medical Talks 2024」が2024年12月22日、日本橋ライフサイエンスビルにて開催されました。

当イベントは、受講生による修了発表を行うプレゼンテーションイベントです。ストリートメディカルラボ学長の武部貴則先生、フリーアナウンサーの町亞星先生、一般社団法人 Stellar Science Foundation ストラテジックデザイナーのSean McKelvey先生、日本総合研究所スペシャリストの山本尚毅先生をメンターとしてお迎えしました。

ストリートメディカルの目指すもの

イベントは、武部先生の講義「ストリートメディカルの目指すもの」から始まりました。武部先生がストリートメディカルを通して目指す未来や実現可能性、アプローチについてお話しいただきました。

 

超高齢化社会・超コミュニケーション社会である現代において、武部先生は自己実現の障害が「命を脅かすもの」から「生活を脅かすもの」へ変化していると指摘しています。その上で、ストリートメディカルの取り組みを通し「一人ひとりに向き合う医療、My medicineの具現化」を目指しています。

 

武部先生率いるYCU-CDCでは暮らすだけで誰もが自己実現に近づける都市「イネーブリング・シティ(Enabling City)」の実現のための取り組みを行なっています。その取り組みの中で特徴的なのは、Healthだけでなく、Happinessも同時に追求するという点です。武部先生は、この新しいアプローチを「イネーブリングファクター(Enabling factor)」と呼んでいます。このアプローチは、ただ健康問題に訴求するのではなく、Happiness drivenに健康課題を考えるという点が特徴です。具体的には、Positive Emotion(うれしい・面白い・楽しい・感動)、Engagement(イキイキする、没頭する)、Relationships(他者とのよい関係)、Meaning(意味・意義)、Accomplishment(達成感)の5つからなるHappiness Factor(PERMAモデル)を街の中に増やすことを目指しています。

 

また、武部先生は講義の終盤に「Health、Happinessに関する研究論文はあるが、Health、Happinessの両方を研究している論文(HappinessをトリガーにHealthyになる)の数はほとんどない。」とお話していました。医療現場における課題や社会における健康課題をHappiness drivenに解決するためには、医学領域を超えた多分野の協力が必要です。そして、それはストリートメディカルラボのカリキュラムにも反映されています。当ラボの卒業生たちがこの考えを学び、少しでも多くの研究や実績が社会に広がることを期待したいです。

第5期生徒による修了発表

プレミアムトイレサービス「スマートポッティ」

 


企画の詳細はこちらから

最初のチーム「potty hunters」の発表は、過敏性腸症候群(IBS)の患者さんの急なトイレ駆け込みニーズに応えるトイレサブスクリプションサービスの提案です。IBSは、一般的な検査では原因が明らかにならないものの、腹痛や下痢、便秘などの症状が慢性的に持続する病気です。このサービスの利用者は、専用のアプリからトイレを飲食店や商業施設、オフィスビルなどの施設のきれいなトイレを予約し、待たずに確実に入ることができます。IBSの患者さんのトイレのニーズを満たすだけでなく、IBS情報交換コミュニティの形成にも取り組みます。IBSという病気のネガティブなイメージの刷新や、サービス利用者の排便習慣の改善・生活の質を向上させることを狙ったサービスです。

 武部学長、メンターの町先生からは、サービスのマネタイズについてコメントが寄せられました。またSean先生からは、トイレについて話すことに対する感情的なハードルを下げるようなスタイリッシュなビジュアルデザインを評価するコメントがありました。さらに、日本よりも海外においてトイレのニーズが高いことからグローバル展開の可能性などについて提案がありました。

様々なにおいを嗅ぎ分け、嗅覚で遊ぶ新感覚エンタメ「NIOI MATRIX」

チーム「ヘルスニッファーズ」の発表は、年齢とともに衰える“嗅覚”に注目した、におい脱出ゲーム、ラボ、ショップ、カフェなどが併設されたエンタメ施設の提案です。嗅覚は20代くらいから徐々に低下し始め、60歳ごろには低下が嗅覚の衰えが目立つようになると言われています。嗅覚が衰えると様々な疾患や機能障害を引き起こすリスクが高まるにも関わらず、日常生活で気づきにくく、健康診断でも扱われていない点に着目したアイデアです。このサービスを通し、施設を訪れたユーザーに対しては嗅覚と向き合う機会を増やすこと、医療領域においては発展途上の医療分野の開拓や医療技術の普及などの効果を狙っています。

 山本先生からは、においから想起される記憶に着目し、一人一人の記憶に合わせてカスタマイズされた香りのサービスなどの提案がありました。武部先生、Sean先生、町先生からは、エンタメ施設でユーザーが嗅覚に関心を持ったその先の生活や医療、サイエンスなどもデザインすることの重要性が指摘されました。また、人間の五感のうち嗅覚の領域の研究や技術が発達していないことか

 

 

誰かと話してさみしも水に流れそう 「つながるトイレ」

 

「心のトイレ推進委員会」チームの提案は、実際のトイレの個室空間を利用し、誰かと話すことによって孤独感を癒すコミュニケーションサービスです。20〜30代のうち、孤独感を感じる人が半数以上おり、さらに孤独を感じた時に相談できていないという人が多い現状に着目したアイデアです。このサービスの利用者は、別の場所の「つながるトイレ」にいるどこかの誰かと匿名で5分間話すことができます。さらに「つながるトイレ」以外にも呼吸するトイレや、水に流すトイレ、叫ぶトイレなど、さまざまなメンタルケアにつながる場所やモノを「心のトイレ」とするプロジェクトです。

 武部先生からは、トイレの利用時間とメンタルヘルスの関連性に関する事例が紹介され、トイレのストレスコーピングとしてのさまざまな利用目的の可能性についてコメントがありました。また、Sean先生からは、外の世界に対して自己をコントロールする場としての使い方を評価する一方で、匿名性であることの注意点に関する指摘もありました。

 

更年期の新しい捉え方「第二思春期」

 

ストリートメディカルラボの運営スタッフで結成された「チームめのぽ」は、更年期の持つネガティブなイメージを改め、理解や治療を促進させるキャンペーンを提案しました。更年期を「セカンド思春期」と名付け、スーパーのカゴや電車内のポスターで訴求します。更年期も思春期もどちらもホルモンのゆらぎによって起こる自然な変化ということを理解してもらい、婦人科の受診、周囲の理解・サポートを促進するアイデアです。更年期を取り巻く課題として、症状が知られていない、治療が適切に受けられていないという課題があり、ネガティブなイメージを取り払うことでこれらの課題の解決を目指します。

 メンターの先生方からは、更年期の当事者に対してだけでなく、その周りの家族、職場、社会など幅広く訴求する形を評価する声が上がりました。ネガティブなマインドセットをポジティブに変換し、正しい理解、受診、治療を促すことの重要性に対するコメントもありました。

 

不健康マッチング 〜健康になりたいきっかけをご用意しました〜

チーム「みちばたmeet」の発表では、不健康な人同士をつなげることで、楽しみながら健康になるマッチングシステムが提案されました。健康診断で有初見と判定された人を対象に、「不健康マッチング」のお知らせが健康保険組合から届く仕組みです。料理コース、ワインコース、街歩きコースなど様々なコースが用意され、好みのものを選ぶことができます。コミュニティ、サービスなど健康習慣をつくるきっかけを提供し、健康的な習慣の持続や、組織全体の健康レベルの向上を目指します。企業の保健師として働くメンバーの、健康診断の結果がよくない人が生活習慣を改善するきっかけをなかなか見つけられないという課題感から生まれたアイデアです。

 山本先生からは、前述の武部先生のアプローチでいうHealthyアプローチになりがちなテーマにおいて、Happiness drivenのアプローチになっている点を評価するコメントがありました。また、武部先生、Sean先生からは、マッチングしたチームごとに健康行動にコミットメントさせる仕掛け、目標設定やリワードなどポジティブにチームの運営をするための仕掛けづくりについてコメントがありました。

「FUKANZEN」やさしさわかちあいプロジェクト 〜寄付で、自分も人もハッピーに〜

 

「ヤサシイセカイ」チームは、寄付を通してやさしさをわかちあえる病院の仕組みを提案しました。

医療費の支払いの際に少額の寄付を選べるシステムや、カード決済に合わせてテープカットの演出がされる設備など、思わず寄付をしたくなるような仕掛けを院内に作ります。さらにポスターによる啓発キャンペーンや、院内のカフェにおいて受け取って欲しい人を指定して寄付ができるシステムなど様々な展開を検討しています。

 Sean先生、町先生からは、寄付したお金で実際に誰を支援したのかを見える化する必要性について指摘がありました。目的が明確な方が支援を受けやすい、支援した相手からのメッセージなどがあると支援するモチベーションになるなどの意見がありました。また、山本先生からは、医療のありがたみを再確認できるような仕掛け、ありがたみを感じた時に寄付ができる仕組みについての提案がありました。

スティグマに悩む患者さんの心を守る「こころまもり」

 

「スティグまんまる」チームは、ウイルス性肝炎の患者さんが、自分へ向けてしまうスティグマをテーマにプロダクトを提案しました。このテーマの背景には、医師による適切な説明が不足しているために、ウイルス性肝炎の患者さん自身が自分の病気について十分な理解ができていない課題があります。このプロダクト「こころまもり」は医師が患者さんに説明をする際に使うパンフレットと、それを入れて持ち運べるお守り型の絆創膏ケースです。パンフレットには、感染する条件の詳しい説明が書かれており、患者さんが不安になった時にいつでも確認できるようになっています。

 メンターの先生方からは、一般的なパンフレットの形にとらわれない、携帯できる形のプロダクトに対して評価がありました。一方で、当事者が他者とのコミュニケーションをとる時にサポートとなるようなプロダクトの展開方法についてコメントがありました。具体的には、患者さん同士のコミュニケーションの場や、患者さんが家族や友人に自分の病気について伝える場面でのサポートツールなどの提案がありました。

学長賞発表

メンター陣による紛糾した議論の結果、第5期ストリートメディカルラボ修了発表の学長賞は「不健康マッチング 〜健康になりたいきっかけをご準備しました〜」となりました。実現可能性の高さ、新規性の高く、新たな動きを起こす可能性の高さという点で評価しました。

終わり

2024年7月から半年間開講されたストリートメディカルラボ第5期が修了。各チームとも、授業で学んだことを最大限吸収しましたし、ギリギリまで何回もブラッシュアップを重ねましたとてもよい発表各チームのアイデアの今後の展開がとても楽しみです。

武部先生からは、ストリートメディカルで出会った人や場所、環境との関係性を今後とも継続し、ストリートメディカルな活動が増えて欲しいと総評がありました。当ラボで学んだことをそれぞれのフィールドに持ち帰り、多くの生徒が活躍することを期待したいです。

 

メンターの皆様からも励ましと期待の言葉がたくさん寄せられました。

第5期はこちらで完了しましたが、次はこの企画の実現に向けてさらに頑張っていきます。

皆さん、半年間本当にお疲れ様でした。

 

 

テキスト by 佐久間美季